特別回
感染症のこと、
新型コロナウイルスへの疑問

監修医 落合和彦
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長

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感染症のこと、
新型コロナウイルスへの疑問

新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中の人々のライフスタイルに多大な影響が及んでいる今。CASE.07の今回は、番外編として働く女性のためだけでなく、すべての人が今、知りたい新型コロナウイルスへの疑問を、最前線で医療に携わる医師が解説し、ウイルスの特徴や感染リスクについてなど、日常で気を付けるべきアドバイスをご紹介します。

CASE.EXでは、職場でテレワーク中の商社勤務のF子さんが感じている疑問にフォーカス。新型コロナウイルスによる肺炎は、2020年5月8日時点で、全世界の感染者は202の国と地域で400万人を超え、死亡者数も28万人に達しているとされています。F子さんの会社も海外との取引が主要であることから、社内でも新型コロナウイルスの感染拡大が早期に収束されることが期待されています。

そもそも、なぜこんなに恐ろしい感染症が急激に蔓延しているの?

CASE.EX 商社に勤めるテレワーク中のF子さん

新型コロナウイルスの感染拡大が始まったのはいつから?その発生源とは?

F子です。世間では多数の企業でテレワークが進められている中、私は会社印の管理をしている立場上、週に1回はひと気のないオフィスに出向き、押印しなければなりません。不思議なもので、そんな生活にも次第に慣れてきている自分を再確認している今日この頃です。率直に今一番感じているのは、そもそも「どうして、こんなに恐ろしい感染症が急激に蔓延してきたの?」ということでした。そこでこの際、新型コロナウイルスへの疑問について主治医に尋ねてみることにしました。

ドクターズEYE!新型コロナウイルスの発生はいつ、どこで?

2019年12月中国武漢市で、原因不明の肺炎が確認されました。同市の食肉市場からのコウモリからのウイルスが原因ではないかとされています(現在、一部メディアでは武漢市にあるウイルス研究所からのウイルス流出が原因ではないかとの指摘もあります)が、瞬く間に武漢市内に蔓延しました。当初は重症インフルエンザの亜型またはSARS類似の感染症と考えられ、容易に封じ込めることが可能とされていました。一部の医療関係者からは急激な肺炎症状の悪化や感染力の強さを警戒する声がありましたが、国内では政治的な影響もあってか封じ込まれ、年内にはWHOはじめ国際的にも周知されないまま2020年を迎えてしまいました。2020年1月に感染の速さと死亡率の高さを認識した中国当局は、やっとWHOとともに感染防止対策をとることになったとされています。

中国武漢市での感染拡大は2019年12月から。始めは、このウイルスがここまで恐いものだとは思われていなかったということなのね。

原因となっているウイルスはどんな性格をもっているの?

その後、テレビニュースで世界中に急激に感染が拡大したことを知り、原因となるウイルスはどのようなものなのか?また自分が感染したらどんな症状がでるのか、そして女性にはなにか特有の症状があるのかなどを知りたくなり、さらに医師に尋ねてみました。

ドクターズEYE!
インフルエンザに類似しているが、多くの人は抗体をもたない

この疾患の原因ウイルスは、一般的なインフルエンザや数年前に蔓延した新型インフルエンザと類似したコロナウイルスのグループに属していますが、細かな分子構造が以前にない性質を持っています。そのため多くの人にはウイルスに対する抗体を有していないために感染が広がると考えられています。新型コロナウイルス(正式名称は「SARS-CoV-2」)によって引き起こされる症状には、さまざまなものがあります。これまでの報告により、インフルエンザに類似した症状や関節痛、倦怠感のほか、呼吸器症状、下痢、嗅覚・味覚障害、腎障害があることが明らかになってきました。しかし、月経障害など女性に特有な症状の報告はみられていません。

毎年流行するインフルエンザなら感染しないように注意することはできるけれど、抗体を持っていない人が多いということが感染拡大の大きな要因なのね。

自分が感染したらどんな症状があるの?

ニュースで報道される感染者数の増加をみていると恐くなりますが、もし仮に自分が感染してしまった場合、症状の中で注意しなければならないものはあるのでしょうか?

ドクターズEYE!
発熱、そして呼吸器症状に注意!

特に、呼吸器症状は重症度をはかる重大な指標になるとされています。今まで経験したことのないだるさ(倦怠感)に加え、少し動いただけで息切れがある、呼吸数が増える、脈拍が多くなるといった症状が注意すべきポイントです。37.5℃を超えるような発熱があって、上記の症状がある場合には医療機関に連絡してください。加えて男性、高齢者、喫煙者そして糖尿病・高血圧・心疾患などの“持病もち”やがん治療などをしている場合には重症化しやすいこともわかっています。

私の両親も高齢なので心配です。高齢者や男性、基礎疾患がある人には自分からはうつさないように気を付けないと!

感染しない、感染させない、
そのために必要なことは?

メディアでは、有名俳優や、アナウンサーなどの著名人の感染や、死亡が連日のように報道されています。私もマスクや手洗いといった一般的な感染予防は心がけてきましたが、この目に見えない新たな敵についてもっと知りたいと思ってきました。COVID19の感染形態に特徴はありますか?

ドクターズEYE!
感染形態には不明な点が多いが、まずは飛沫感染、接触感染に注意

一般的には飛沫感染、接触感染で感染します。閉鎖した空間で、近距離で多くの人と会話するなどの環境では、咳やくしゃみなどの症状がなくても感染を拡大させるリスクがあるとされています。しかし、COVID-19がどのように感染するかについては、詳細には不明な点も多いとされています。一般的に言えば、ウイルスに感染するためには、感染者に直接触る、あるいは感染者が触った物に触る、ウイルスを大量に含む飛沫にさらされることが必要です。ウイルスは物の表面で何日も生き続けることがありますので、それに触れたことで感染を広げる可能性があり、頻繁にしっかり手を洗うことと、少なくとも1メートル以上の社会的距離を置くことが感染予防の要点と言われています。残念ながらCOVID-19に特別の感染防止策はありません。

まだまだこのウイルスについて不明なことが多いから、今後の情報に注目しつつ、人との接触を避けることが大事ね。

パンデミックは100年毎に起きている?

すでにCOVID-19は、全世界に感染がひろがり、いわゆるパンデミックという状態になっているけれど、興味深いことに、世界的なパンデミックは100年毎に起きているとの指摘も聞いたことがあります。本当にそうなのでしょうか?

ドクターズEYE!パンデミックの発生と日本での感染拡大

1720年前後には南フランスのマルセイユで「ペスト菌」によるウイルス感染があり、全世界で1000万人以上が死亡したと記録されています。しかし幸いなことに我が国への影響は少なかったとされています。一方で、1820年ごろにはインドネシアやフィリピン、タイなど東南アジアで「コレラ菌」による感染が広がり、我が国でも100万人以上が死亡したという記録があります。江戸市中で「コロリ」として恐れられ、激しい下痢と嘔吐を繰り返し、脱水症状によって死に至りました。徹底した手洗いと石炭酸による排泄物の処理により約1年で江戸からコロリを収束させました。
さらに、ちょうど100年前の1920年にはスペイン風邪の流行により、全世界で5000万~1億人が死亡したと言われています。当時は第一次世界大戦の真っ最中でありましたが、スペイン風邪によって終戦させたという説があるほどです。当時の世界人口は約20億人だったことから世界の総人口の約5%が命を落としたことになります。一方、日本ではその当時の人口約5500万人のうち約40万人が感染して亡くなったと言われています。つまり、世界中で感染して死亡した5%に対して、死亡者はたったの0.7%という極めて少ないことがわかります。

これまでもパンデミックの危機にさらされてきた世界の中でも、日本はそのたびに死亡者をおさえてきたという歴史があったのね。

妊娠中の女性がコロナウイルス感染症について
気を付けるべき点は?

実は、私の友人G子さんは、現在妊娠4か月。妊娠経過は順調と言われていますが、今回の新型コロナ感染症について彼女はとても心配しています。そこで妊娠中の感染についての注意点についても尋ねてみました。

ドクターズEYE!胎児への影響、重症化リスクのほか、治療薬にも注意が必要

現時点では新型コロナウイルス感染によって、胎児の異常、流産、早産、死産のリスクが、高くなるという報告はありません。しかし子宮内における胎児のウイルス感染が疑われる例が報告されています。また、妊婦さんが新型コロナ肺炎になった場合には重症化する可能性があります。さらに、この肺炎に対する効果が期待できる薬剤のひとつである“アビガン(一般名ファビピラビル)”は、胎児の催奇形性の危険があるために妊婦には禁忌となっていますので、特に感染予防の注意が必要になってきます。そのため、遠方への帰省分娩については主治医と十分に相談してください。

胎児への感染や重症化のリスクに加えて、アビガンは妊婦には禁忌なのね!やはりG子さんには感染予防を徹底することをすすめるわ。

妊娠中のメンタルケアも大切。
なにかよい対策はあるの?

妊娠中の女性は、体調だけでなく精神的な失調が起こりやすいとされているけれど、G子さんも長期間の外出自粛により、抑うつ状態になり、些細なことでご主人と喧嘩が絶えないのだとか。なにか改善する方法はないのかを聞いてみました。

ドクターズEYE! オンラインによるコミュニケーションの活用

妊娠中は正常の経過の中でも精神的に不安定となります。今回の外出自粛要請では、特にその頻度が高くなります。他人との接触がなくなり、社会の中での孤独感が強くなり、不安が増強する今回の病態は「コロナ鬱」とも呼ばれています。家庭内での「いさかい」が増えたり、DVに発展するような事例も報告されています。このような中で、注目されているのがWEBを用いたカウンセリングやオンライン診療、仲間同士でのオンラインによる情報交換などです。また、妊婦を対象にしたWEBを利用した助産師による母親学級なども好評のようです。

直接、接することができない妊婦は、オンラインで他人とコミュニケーションを取る方法が一番のようね。

これから私たちができること、
日常の中で気を付けられる点は?

最後に医療関係者の立場から、都民や国民に向けて伝えたいこと、メッセージはありますか?私がひとつ気になっているのは、自宅に居る時間が増える分、ペットと接触する機会も多くなりますが、ペットに感染するまたはペットから感染することはないのでしょうか?

ドクターズEYE! 目に見えない敵に対する十分な警戒が必要

先ほども触れたようにこのCOVID-19は目に見えない敵で、すでに社会の中に潜んでいます。理論的には国民の70%が感染すれば“集団免疫”を獲得することができ、感染症を収束させることが可能ですが、それは現実的ではありません。現在ワクチンや治療薬の開発を急いでおりますが、いまだにそれらを使える環境ではありません。ですから、皆様には人と人との距離をとること(Social distancing: 社会的距離)、外出の際のマスク着用、咳エチケット、石けんによる手洗い、アルコールによる手指消毒、換気といった一般的な感染症対策や、十分な睡眠をとる等の健康管理を心がけるとともに、地域における状況(緊急事態宣言が出されているかどうかやお住まいの自治体の出している情報を参考にしてください)も踏まえて、予防に取り組んでいただくしかありません。
また、これまでのところ、新型コロナウイルスがペットから人に感染した事例は見つかっていませんし、ヒトからペットに感染したとの報告もありません。しかし一般的なことですが、動物との過度な接触は控えるとともに、普段から動物に接触した後は、手洗いや手指消毒用アルコールで消毒などを行うようにしてください。

ペットと接触した後にも、これまで以上に気を付けて、この世界的な危機を乗り越えられるようにしたいと思います!

F子さんの感想

主治医の話を聞き、私は予定していたGWの軽井沢への旅行を中止にして、外出自粛をすることにしました。一日も早い収束に向けて、一人一人ができることを自覚して「ONE TEAM」で臨むことが重要であると認識しています。

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監修医プロフィール

落合 和彦

生年月日 昭和26年10月10日
現職 東京慈恵会医科大学客員教授
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長
公益社団法人 東京都医師会理事

学歴および職歴
昭和52年東京慈恵会医科大学卒業後、米国UCLA留学を経て東京慈恵会医科大学付属青戸病院院長、産婦人科教授を歴任
平成29年同大学を定年退任 同大学客員教授となる。
公益社団法人・東京都医師会理事、一般社団法人・東京産婦人科医会名誉会長を兼務

所属学会
日本産科婦人科学会(功労会員)、日本産婦人科医会(理事)、日本婦人科腫瘍学会(功労会員)、日本臨床細胞学会(功労会員)、日本産婦人科手術学会(功労会員)日本サイトメトリー学会(名誉会員)など

2019年11月現在

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