第5回
自覚症状が少ない卵巣がんを
早期発見するために。

監修医 落合和彦
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長

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自覚症状が少ない卵巣がんを
早期発見するために。

“仕事もプライベートも自分らしく充実させたい”そんなあなたのウェルネスライフを叶えるために、各方面の専門医が、働く女性のヘルスチェックのアドバイスをするこのコーナーでは、女性の身近にリスクがあるトピックスをご紹介します。

CASE.05では、良性でも悪性でも初期症状が少なく、早期発見が遅れがちになるリスクをはらんでいる卵巣がんです。今回は、ほとんど自覚症状がなく、おなかの張りが気になって内科クリニックを受診して卵巣がんの疑いが発覚し、大学病院で検査、そして手術へと治療を進めたE子さん61歳の事例をご紹介します。

閉経後50代、60代で
ピークを迎える卵巣がんのサイン

CASE05 喫茶店経営E子さん61歳の話

自覚症状は、おなかの張り。まさか卵巣がんだとは…

E子です。私は結婚前には企業の営業部に勤めていましたが、娘のF子を出産後、数年で主人を事故で亡くし、主人が経営していた喫茶店を女手一人で受け継いできました。休みもなく働いてきましたが、最近「おなかの張り」が気になって娘に相談しました。とりあえず、近くの内科クリニックに受診しました。内科クリニックでは、腹部の触診、超音波検査が行われ、多量の腹水が貯留していることがわかりました。同時に卵巣の腫大も確認され、精密検査が必要との事で、大学病院を紹介されました。まさに寝耳に水の出来事でした。

ドクターズEYE!卵巣がんとは?

卵巣は子宮の左右両側にある、親指ほどの大きさの臓器です。卵巣がんは、良性の場合も悪性の場合も初期の頃は症状が出にくいのが特徴です。お腹の張りを感じたり、「太った」と感じたりする人もいますが、不正出血などは少なく、症状を自覚することは少ないといいます。そのため早期発見が難しく進行してから発見される場合が多いのです。
日本における卵巣がんの罹患率は1985年から上昇傾向が続いており、近年では年間に約10,000人の女性が新たに卵巣がんに罹患し、約4,800人が亡くなっています。

まさか、自分が婦人科系のがんになるとは想像もしておらず、自覚症状もないまま発見が遅れてしまい、定期検診を受けていなかったことが悔やまれます。

どんな人がなりやすい?
実は、家族性があるという可能性!

私は10年前に閉経し、更年期症状もあまり強くなかったことから、まさか自分が婦人科疾患、とりわけ卵巣に異常があるとは思ってもみませんでした。仕事の忙しさにかまけて人間ドックどころか区民検診も受診していませんでした。でも、考えてみれば私の母も卵巣がんで亡くなっていたのでした。医師からの説明で「卵巣がん」には、家族性があることも、この時に始めて知りました。

ドクターズEYE!
遺伝性卵巣がんの可能性があることを知ること

卵巣がんにかかる確率(罹患率)は40代から増加し始め、閉経後の50歳代~60歳代でピークをむかえます。また、発症には様々な要因が関わっているとされており、以下のような人は卵巣がんにかかるリスクが高いといわれています。家族で卵巣がん・乳がんにかかった人がいる、出産を経験していない、初潮が早かった、閉経が遅かった、肥満、排卵誘発剤を使用している、10年以上にわたってホルモン補充療法を受けている、チョコレート嚢胞(子宮内膜症性卵巣嚢胞)などです。
また、国内で最近行われた研究の結果、卵巣がんと診断された患者さんのうち17.8%の方が、特定の遺伝子に病的変異がある遺伝性卵巣がんであることが分かりました。比較的若い年齢で卵巣がんになった患者さん、卵巣がんになったご家族がいる患者さん、特定のタイプの卵巣がんの患者さんでは、こうした遺伝性卵巣がんの可能性が高いことも分かりました。

家族に卵巣がんになったことがある場合は、定期検診を欠かさないことが大事だったのですね。

卵巣がんの進行度合いは、どのように診断されるのか?

大学病院を受診した私は、診察の結果、卵巣がん3期と診断されました。「おなかの張り」の本体は卵巣の腫大と多量の腹水が原因でした。卵巣癌の病期は最終的には手術により決定することになるとのことでした。つまり手術により、がんの広がりを把握し、手術進行期分類で診断されます。

・Ⅰ期 がんが卵巣に限局している

・Ⅱ期 がんが片側または両側卵巣に存在し、さらに骨盤内臓器へ進展している

・Ⅲ期 がんが骨盤腔を越えて、上腹部の腹膜、肝臓表面、大網、小腸に転移しているか、後腹膜リンパ節あるいは鼠径リンパ節に転移している

・Ⅳ期 遠隔転移、肝臓実質への転移、悪性細胞が証明された胸水が認められる

ドクターズEYE!
卵巣がんの疑いがある場合に行われる具体的な検査は?

卵巣がんを疑った場合、以下のような検査を行います。

内診:子宮や卵巣、直腸に異常がないかどうかを調べるため、膣や肛門から検査をします。

超音波(エコー)検査:超音波が臓器から返ってくる、反射の様子を観察します。腫瘍の性状や、回りの臓器との位置関係、ほかの臓器やリンパ節への転移の有無を確認します。検査により腫瘍が嚢胞性(ふくろ状)の場合の多くは良性腫瘍ですが、充実性部分(かたまりの部分)と嚢胞性部分が混在する場合や全体が充実性の場合などでは悪性腫瘍や境界悪性腫瘍を疑い精密検査を行います。

CT・MRI検査:腫瘍の位置や他臓器への進行具合、リンパ節への転移の有無を確認します。

血液検査:血液中の腫瘍マーカーを調べます。

細胞診検査:腹水がある場合には、腹水中の細胞を検査する。

がんの広がりは最も重要な予後因子なのだそうです。そのため手術をする必要があることを知りました。

手術の範囲は、全摘出!?
それしか方法はないの?

私は3期の疑いとの判断でした。CTやMRIでは他臓器への明らかな転移はみられませんでしたが、腹水細胞診で悪性細胞が確認され、腹膜播種(腹水中にがん細胞がばらまかれている状態)とリンパ節への転移が疑われたからです。主治医からは、手術により可能な限り病巣を全摘出するとの方針が示されましたが、なぜ異常のない子宮や反対の卵巣も併せて摘出しなければならないのか疑問を持ちました。

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卵巣がんの治療は広範囲にわたる手術が原則

治療の原則は手術になります。進行病期(ステージ)や年齢、妊娠希望の有無、合併症の有無など、患者さんそれぞれの状態に応じて変わってきます。卵巣がんでは、原則として原発の卵巣だけでなく、子宮摘出術、反対側卵巣・両側卵管摘出術、大網切除術、後腹膜リンパ節郭清などを行い、完全摘出を目指します。これだけ広い範囲を摘出するのは、異常のない(と思われる)子宮や反対側の卵巣にも微小な病巣がみられることがあるからです。また進行症例で完全摘出困難と思われる場合でも、がんの種類、広がりなどを診断する目的で手術を実施することがあります。また、病状によっては術前、術後に抗がん剤を用いた化学療法が実施されることもあります。閉経後の女性の場合には大きな症状の変化はありませんが、卵巣は女性ホルモンを分泌する臓器ですので、閉経前に摘出すると更年期様の症状が出現し、のぼせやほてりなどが出てくることが少なくありません。また、子宮を含めた広範囲を手術によって切除した場合に神経障害による便秘が生じたり、リンパ節を切除した後に下半身のむくみがみられたりと、治療後に後遺症がみられることがあります。

閉経後の女性の場合は、大きな症状の変化はないとのことですが、それでもさまざまに不安は募りました。

見つかれば全摘出手術を。
なによりも早期発見が大切。

主治医からは完全摘出が、最も治療成績の向上につながることや、術後の抗がん剤を用いた化学療法についても詳細に説明を受け、ようやく気持ちも落ち着いて手術を行うことを納得しました。髪の毛が無くなることや吐き気が強く出ることなど心配は尽きないものの、ネットで検索してみると多くの関連記事もあり、世の中には多くの「がんサバイバー」がいることも背中を押してくれました。自営業であったこともあり、検診を怠っていたことを反省してはいますが、生還した後のF子との温泉旅行を楽しみに計画している毎日です。

ドクターズEYE!定期的な子宮がん検診の内診やオプション検査を

卵巣がんについては、現在、指針として定められている検診はありません。また、卵巣がんに関しては科学的に根拠のある検診方法も確立されていません。しかし、定期的な子宮がん検診でも内診がありますし、オプションで超音波や腫瘍マーカーを調べるドックもあります。もちろん急激なおなかの張りや痛みなど、気になる症状がある場合には、医療機関を早期に受診することをお勧めします。1期で治療を行った卵巣がんでは85%以上の5年生存率がありますが、3期でのそれは50%以下ですので、早期発見が重要であることは、他のがんと同様です。

治療をするにあたって喫茶店の今後の経営など不安は募るばかりではありますが、娘のF子自身も「卵巣がん」になりやすい家系を受け継いでいるかもしれないことを強く認識する結果になりました。次回の検診では卵巣がん検診のオプションをお願いすることにしたようで、もし遺伝性卵巣がんの傾向があったとしても、早期発見につながることを祈ります。

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監修医プロフィール

落合 和彦

生年月日 昭和26年10月10日
現職 東京慈恵会医科大学客員教授
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長
公益社団法人 東京都医師会理事

学歴および職歴
昭和52年東京慈恵会医科大学卒業後、米国UCLA留学を経て東京慈恵会医科大学付属青戸病院院長、産婦人科教授を歴任
平成29年同大学を定年退任 同大学客員教授となる。
公益社団法人・東京都医師会理事、一般社団法人・東京産婦人科医会名誉会長を兼務

所属学会
日本産科婦人科学会(功労会員)、日本産婦人科医会(理事)、日本婦人科腫瘍学会(功労会員)、日本臨床細胞学会(功労会員)、日本産婦人科手術学会(功労会員)日本サイトメトリー学会(名誉会員)など

2019年11月現在

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