第4回
誰にでも訪れる更年期。
その症状は治療できる。

監修医 落合和彦
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長

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誰にでも訪れる更年期。
その症状は治療できる。

“仕事もプライベートも自分らしく充実させたい”そんなあなたのウェルネスライフを叶えるために、各方面の専門医が、働く女性のヘルスチェックのアドバイスをするこのコーナーでは、女性の身近にリスクがあるトピックスをご紹介します。

CASE.04は、誰にでも訪れる更年期についてです。日本人女性は平均52歳で閉経が訪れます。閉経を境にした前後5年間を更年期と呼び、ホルモン変化がさまざまな症状としてあらわれてくるのが更年期症状、そして更年期障害です。今回は、産婦人科の専門医が、誰もが抱える可能性のある更年期障害についてアドバイス!プライベートや会社でのストレスも多い51歳のD子さんの更年期障害が、ホルモン補充療法でどのように改善していったかの事例をご紹介します。

軽いめまいや動悸、
でもそれは自律神経失調症ではなかった。

CASE.04 経理部長D子さん51歳の話

50代で見舞われる更年期症状のサインとは?

D子です。私は入社以来、経理畑一途に働いてきました。今や社内でも一目置かれる存在です。ところが数年前から会議中に「くらっとした軽いめまい」や「動悸がする」といった症状が出てきたのですが、以前、めまいで耳鼻科を受診し「異常ありませんが、自律神経失調のためでしょう」と言われたことを思い出し放置していました。ところが最近同様の症状に加え、のぼせやほてりも出てきました。緊張すると顔から汗が止まらないといったことも増えてきたように感じます。同年代の友人に相談したところ「更年期障害」ではと言われました。たしかに昨年閉経をしてから症状が強くなった気がして、紹介された産婦人科を受診することになりました。

ドクターズEYE!更年期障害とは?

日本人女性の閉経*の平均は52歳といわれ、閉経の前後5年ずつを更年期と呼びます。この時期に、のぼせ・ほてり(いわゆるホットフラッシュ)・めまい・頭痛・全身倦怠感・不眠といった身体的な症状、また、気持ちの落ち込み・やる気のなさ・不安・憂鬱といった精神的な症状があらわれるものを更年期症状と呼びます。さらにこれらの症状が日常生活を脅かすような支障をきたす場合更年期障害といいます。

更年期症状は、誰にでもあり得ることだとは知っていたけれど、日常生活に支障がでるものは更年期障害として治療する必要があるのね。

肩こりや頭痛の原因にも!?
整体院に通っても改善しないようなら、もしかしたら…

私は閉経になる数年前から「肩こりと頭痛」に悩んでいました。何軒か整体院を変えてみましたが、一時的にはすっきりするもののすぐに元の症状に戻ってしまうのです。それでも、数年前からの主人との離婚問題や、会社でのストレスが大きな問題であろうと考えていました。ですが、最近の「のぼせやほてり」とも関係していることは、医師の話を聞くまで信じられませんでした。

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正確な診断には、専門医に相談が必要になることもある

更年期を迎えると卵巣機能は低下するために女性ホルモンの分泌が低下してきます。そのため月経が不順になり、やがて閉経を迎えます。同時におきる身体や精神的な症状が更年期症状とも言うことができます。女性ホルモンは、脳の視床下部からの司令により卵巣から分泌されます。視床下部はさまざまなホルモンの分泌をコントロールするとともに、体温調節や呼吸、消化機能の調節、精神活動などを司る自律神経のコントロールセンターです。ところが、卵巣の機能が衰えると、脳からの命令が届かなくなるため、これらの機能失調をおこすのです。つまり、いくら「ホルモンを出せ」と指令を出しても女性ホルモンは分泌されませんので、脳がパニックを起こして通常の何倍もの指令を出すために、異常な発汗、イライラ、めまいなどの症状があらわれるのです。しかし、同様の症状があらわれる他科の疾患(たとえば頭痛の原因が脳腫瘍であったり、動悸の原因がバセドウ病であったり重症のうつ病が隠れていたりなど)を否定し、正確な診断を得るためには、専門医に相談することが必要となることがあります。

更年期障害であると正確に診断するためには、専門医に相談してみるのがよさそうね。

治療は産婦人科で。その方法は?

産婦人科では心電図などの一般診療のほか、血液検査や更年期診断質問表の検査を受けたうえで、更年期障害の治療の柱は、
①適度なエクササイズ ②ホルモン補充療法 ③漢方療法 ④抗うつ剤などの精神療法
で、それぞれの病状によって組み合わせて行うことが説明されました。そこで、私は生活環境の見直しを行い、ホルモン補充療法を受けることになりました。日頃の運動不足や偏った食生活についても指導を受けることになりました。特に私の場合は、会社や私生活でのストレスのために睡眠薬を常用していたので、その改善が必要でした。

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早寝早起きの習慣や有酸素運動が効果的

不眠などの睡眠障害そのものが更年期障害のひとつですが、その状態が続くと疲労がたまり、精神的にも落ち込みやすくなります。夜更かしの習慣がある人は、思い切って早寝早起きに切り替える方法もあります。また、寝付けない人や途中で目覚めやすい人は、病院で誘眠剤などを処方してもらい、眠りの質を向上させることも大切です。就寝前にウォーキングなどの軽めの運動をして、からだを適度に疲れさせると眠りやすくなります。
ストレスが続いているような時は、ストレスホルモンなどの影響で呼吸が浅くなり、血液の流れも悪くなりますので、ウォーキングや水泳などの有酸素運動で、呼吸を深くし、血液循環もよくするなど、定期的な運動を取り入れることも更年期障害の解消に役立ちます。

更年期障害の症状の悪循環を防ぐためにも、健康的なライフスタイルを心がけることが大切なのね。

ホルモン補充療法の効果とリスク

週に2回の定期的な運動とホルモン補充療法を行った結果、睡眠薬の常用も止めることができました。運動後の汗が、会議中のじわっとくる発汗と違って、こんなに気持ちの良いものなのかを実感しました。また、日頃ののぼせ・ほてりも少なくなり、毎日が快適に過ごせるようになりました。

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ホルモン補充療法の効果と知っておくべきリスク

ホルモン補充療法とは、不足しているホルモンを補充することで症状を改善する治療法です。女性の場合は、エストロゲンやプロゲステロンを飲み薬や貼り薬で補充します。人によっては大きな改善効果がみられますが、知っておきたいのはそのリスクです。女性の場合には、乳がんや心臓病などのリスクが高くなることが指摘されています。

ホルモン補充療法を受けることのリスクも認識していないといけないのね。

更年期障害に使われるホルモン薬と低用量ピルとの違いは?

私が行った治療は、貼り薬のホルモン療法でした。それを見た同僚のX子は「結局、私が毎日飲んでいる低用量ピルと同じね?」と言われました。X子は以前から月経痛が強く、子宮内膜症と診断され低用量ピルを服用していました。そこで更年期障害に使われるホルモン薬とは何が異なるのか、主治医に尋ねてみました。

ドクターズEYE!ピルに含まれるエストロゲンの強度の違い

低用量ピルも、生理不順や生理痛のひどい方、生理前のイライラなどの月経前症候群の治療を目的に服用される場合があります。ピルも女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンを含んだ混合ホルモン剤ですので、基本的にはホルモン補充の目的で使用することも可能です。しかし、ピルに含まれているエストロゲンの強度は、低用量ピルとはいえ更年期障害に対するホルモン補充療法で使用するものと比べれば4倍以上もの濃度がありますので、閉経後も長期間ピルを継続使用すると、乳がんや血栓症などのリスクが増えることがあります。

エストロゲンの濃度が関係していたのね。更年期障害に使われるものではエストロゲンの濃度が低いと知って安心。

ホルモン分泌量の変化は、
さまざまな身体の変化を引き起こしていた!

その後、ホルモン補充療法を受けはじめてから、更年期症状以外の身体の変化を感じました。たまたま、見直した生活習慣や食生活の改善による効果なのかとも思っていましたが、実は閉経前後から膀胱炎症状を繰り返していて膣内の違和感を覚えていたのですが、まさかこれもホルモンの低下によるものとは思ってもいませんでした。医師からの説明で、膣内の違和感などは、ホルモン変化による皮膚粘膜の萎縮や乾燥であることも理解することができました。

ドクターズEYE!ホルモン補充療法のさまざまな効果

ホルモン補充療法は、女性ホルモン(エストロゲン)の急激な低下にともない発症する自律神経失調症状には効果が期待できます。とくに、冷えやのぼせ、発汗、動悸、息切れといった血管運動神経症状は治療開始とともに速やかに改善することが多く、またアンチエイジング効果として、皮膚や粘膜の萎縮や乾燥による皮膚のかゆみ、膀胱炎様の症状、おりものの異常なども日を追って軽快していくことが実感されます。そのほか特記すべき効果としては、骨塩量の減少を予防し、骨粗鬆症の発症を予防する効果、コレステロール値の上昇を予防する効果、さらにはアルツハイマー病を予防する効果があるなどの報告もみられています。

これまで、他の原因、または気のせいと思っていた症状が、ホルモン変化によって引き起こされていたのだと知って驚き!

治療を受けたD子さんの感想

それ以来、更年期障害に関するネット検索が習慣になった私は、ローヤルゼリー・サプリメント・アロエエキス・呉汁・漢方薬・食事療法から足の裏マッサージ・裸体就寝・お灸・ヨガ・太極拳・カイロ・整体・朝風呂・ライマブレスレットなどなど…いかに多くの民間療法が紹介されていることか!発見し驚きました。しかしそれらに科学的根拠がしっかりあるものが少ないのが現実だそうです。
私は産婦人科を受診して、私自身に合ったホルモン補充療法を選択し、併せて定期的な運動を始めたおかげで症状が緩和し、仕事への悪い影響を押さえることが出来ています。
これからも少しずつ現れてくるであろう自身の加齢に伴うからだとこころの変化に対し、正しい治療を通じて穏やかに慣れて受け容れていきたいと思います。

働くすべての女性へのアドバイス

更年期障害は、
①ホルモンの失調 ②精神的な変化 ③自らの置かれている社会環境
が症状に大きく関係しているために、治療の効果は個人差が大きいです。どのような治療法でも一定の効果が見られることはありますが、その選択に当たっては主治医と相談してください。

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監修医プロフィール

落合 和彦

生年月日 昭和26年10月10日
現職 東京慈恵会医科大学客員教授
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長
公益社団法人 東京都医師会理事

学歴および職歴
昭和52年東京慈恵会医科大学卒業後、米国UCLA留学を経て東京慈恵会医科大学付属青戸病院院長、産婦人科教授を歴任
平成29年同大学を定年退任 同大学客員教授となる。
公益社団法人・東京都医師会理事、一般社団法人・東京産婦人科医会名誉会長を兼務

所属学会
日本産科婦人科学会(功労会員)、日本産婦人科医会(理事)、日本婦人科腫瘍学会(功労会員)、日本臨床細胞学会(功労会員)、日本産婦人科手術学会(功労会員)日本サイトメトリー学会(名誉会員)など

2019年11月現在

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