落合 和彦
生年月日 | 昭和26年10月10日 |
現職 | 東京慈恵会医科大学客員教授 |
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長 | |
公益社団法人 東京都医師会理事 |
監修医 落合和彦
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長
“仕事もプライベートも自分らしく充実させたい”そんなあなたのウェルネスライフを叶えるために、各方面の専門医が、働く女性のヘルスチェックのアドバイスをするこのコーナーでは、女性の身近にリスクがあるトピックスをご紹介します。
CASE.06では、Vol.1でご紹介したA子さんの子宮頸がんの治療の続編として、子宮頸がんワクチンについてご紹介します。今回は、予防とされるワクチンの是非を医学的なデータ検証を元にしたドクターによる見解と、A子さんのその後の事例をご紹介します。
A子です。子宮頸癌検診で異常細胞があることが判明してから3年が経過しました。毎年の検診でも異常は出ていません。先日、かかりつけの産婦人科クリニックで検診を受けるために来院し、待合室で1枚のポスターに目が留まりました。「お母さんは検診を、お嬢様にはワクチンを」との子宮頸がんのワクチンについてのキャッチコピーです。すべての女性にとって気になる、子宮頸がんワクチンについて早速、医師に尋ねてみることにしました。
ドクターズEYE!子宮頸がんワクチンとは?
子宮頸癌はHPVというウイルスの感染によって発症することが知られています。特に子宮頸がんの原因になりやすいとされている16型、18型を対象としたワクチンと、それら2つに加え尖圭コンジローマの原因となる6型、11型の4種を対象とするワクチンがあります。
ワクチンの接種率の現状
副作用ニュースの余波
子宮頸がんワクチンの存在は、テレビのニュースなどで知っていたけれど、副作用に関する話題が目についていた記憶が。実際の効果はどうなのか、また既に子宮頸がんを発症してしまった自分にとっても意味があるものなのか知りたくなり、さらに医師に尋ねてみました。
ドクターズEYE!
日本のワクチン接種率の深刻な現状
このワクチンは、HPVに類似した構造になっています。つまり、病気を発生するDNAゲノムを持っていない非感染性の粒子となっていますので、HPVにまだ感染していない女性に接種すれば、同じタイプの新たなHPVには感染しないことになります。ですから、すでに感染の既往がある女性に対しては接種の効果はありません。我が国では2010年、HPVワクチンが公費助成の対象となり、2013年から、13〜16歳の女子に対して公的補助が行われることになり定期接種化されましたが、ほどなく「副反応」の報告が相次ぎ、同年6月、厚生労働省が「積極的な接種勧奨の一時差し控え」を決定。それから5年以上経過した現在でも、その状態が継続されています。その結果、全国で約70%と非常に高かった接種率が、現在では1%以下に落ち込んでいます。世界的に見ても極めて特異な状況で、WHO(世界保健機関)は「そのせいで頸がんの死亡率が上昇している」と、日本を名指しで批判しているほどです。
実際にあったワクチンの副作用って
どんなもの?
接種後に見られる主な副反応としては、発熱や接種した部位の痛みや腫れ、注射による痛み、恐怖、興奮などをきっかけとした失神などが挙げられます。どれもHPVワクチンに特有の反応とは言えないとされていますが、接種後に、アナフィラキシー反応や複合性局所疼痛症候群(CRPS)、ギラン-バレー症候群などの重篤な副反応の報告があります。
ワクチン接種と副反応
その因果関係は?
ただ、実際に子宮頸がんを発症した私としては、未然に防ぐ方法があったとしたら、どれほど救われたかと考えてしまうから。ワクチン接種後の副反応とワクチン接種との因果関係は証明されているのかどうか、さらに医師に尋ねました。
ドクターズEYE!
科学的研究ではその因果関係は証明されたわけではない
センセーショナルな報道やSNSの投稿などによってHPVワクチンを「危険なワクチン」と思っている方も多いと思いますが、結論から申し上げれば、科学的研究で「ワクチンとワクチン接種後に現れる副作用とされている症状には、因果関係があるとはいえない」として差し支えありません。名古屋市はHPVワクチンと接種後に現れたさまざまな症状の因果関係を解明するために、名古屋市に住民票のある小学校6年生から高校3年生までの女子約7万人に対してアンケート調査を行った結果、副反応とされる24項目にわたる症状は、ワクチンを接種した人と接種していない人で差はみられなかったという結論が得られました。
世界的な子宮頸がんワクチンの
動向と発生状況!?
ワクチンの接種についての世界的な動向はどうなのかしら。諸外国での子宮頸がんの発生状況は、すでに変化しているのか、私は科学的かつ客観的な視点で、この病気のこと、そしてワクチンのことを知りたいと思いました。
ドクターズEYE!
定期的な子宮がん検診の内診やオプション検査を
現在90以上の国で子宮頸がんワクチンとして接種されています。HPVワクチン接種を国のプログラムとして早期に取り入れたオーストラリア・イギリス・米国・北欧などでは、HPV感染や前がん病変の発生が有意に低下していることが報告されています。また、すでに9種類のHPV感染を予防するワクチンが開発されています。また、世界保健機関(WHO)の「ワクチンの安全性に関する諮問委員会」は、子宮頸がん予防ワクチンは世界中で幅広く使用されており、どの国からも、日本で生じているものと同様な安全性への懸念は生じていないことから、「子宮頸がん予防ワクチンの安全性に疑問を呈する理由はほぼ見当たらない」と報告しています。
子宮頸がんという病気への
理解を深める必要性と
ワクチンを受ける際の注意点
A子さんは、これからも子宮頸がんに対しての理解を深める必要性を確信しました。親戚の女の子にも「HPVワクチンの有用性」を教えてあげることにしました。最後にワクチン接種を受ける上での注意点について聞いてみました。
ドクターズEYE!ワクチン接種の目の基本的な心得
どんなワクチンの接種でも共通のことですが、注射が苦手な人や、怖いなと思う人は、事前に医師に伝えましょう。注射の痛みや怖いと思う気持ち、興奮などによるさまざまな刺激がきっかけとなり、心拍数や血圧が下がることで、気を失う(失神)ことがあります。
通常は、横になって安静にするだけですぐに回復します。
また、一般的に、ワクチン接種において、接種した部分が赤くなったり、腫れたりすることがあります。これは、ワクチンによって免疫がつくられるときの身体の反応によるもので、数日で消えることがほとんどです。
A子さんの感想
監修医プロフィール
落合 和彦
生年月日 | 昭和26年10月10日 |
現職 | 東京慈恵会医科大学客員教授 |
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長 | |
公益社団法人 東京都医師会理事 |
学歴および職歴
昭和52年東京慈恵会医科大学卒業後、米国UCLA留学を経て東京慈恵会医科大学付属青戸病院院長、産婦人科教授を歴任
平成29年同大学を定年退任 同大学客員教授となる。
公益社団法人・東京都医師会理事、一般社団法人・東京産婦人科医会名誉会長を兼務
所属学会
日本産科婦人科学会(功労会員)、日本産婦人科医会(理事)、日本婦人科腫瘍学会(功労会員)、日本臨床細胞学会(功労会員)、日本産婦人科手術学会(功労会員)日本サイトメトリー学会(名誉会員)など
2019年11月現在
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私が行っている定期的ながん検診(細胞診)は、前がん病変を発見し、がんへの進展を防ぐ目的で行われるもので、2次予防として確立しているものの、検診で陽性を示す割合(感度)は70%前後と十分に高いとは言えず、また一定の割合で検診では異常なし(偽陰性)と判定されてしまう場合もあるのです。それに対し、HPVの感染自体を予防して前がん病変・頸がんを発生させないようにするのがHPVワクチンの1次予防としての考え方です。私は既に、HPVワクチンの対象にはなりませんでしたが、多くの女性たちに「お母さんは検診を、お嬢様にはワクチンを」と訴え続けたいと思います。