第7回
働く女性の妊娠と出産にまつわる
就労環境を知る

監修医 落合和彦
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長

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働く女性の妊娠と出産にまつわる
就労環境を知る

“仕事もプライベートも自分らしく充実させたい”そんなあなたのウェルネスライフを叶えるために、各方面の専門医が、働く女性のヘルスチェックのアドバイスをするこのコーナーでは、女性の身近にリスクがあるトピックスをご紹介します。

CASE.08では、働く妊産婦の就労環境についてです。社会全体で女性にとって働きやすい環境が整えられてきている中でも、実際に自分が妊娠出産に臨むことになったら実際にどのような制度があるのか、知らないことも多いはずです。今回は、妊産婦になったキャリアウーマンのC美さんが総務課人事係に相談をして、妊娠中の諸注意や労働基準法、男女雇用機会均等法などについて初めて知ったケースから、働く女性が妊娠出産に臨む際に知っておきたい妊産婦の就労環境についてご紹介します。

待望の妊娠!でも働き続けるためにはどんな制度があるの?

CASE07 出版業界に勤めるキャリアウーマンのC美さん

つい会社の状況を考えてしまうけれど、自分のキャリアを尊重してもらってもいいの?

C美です。都内の中小出版社に勤め、世間的にもいわゆるキャリアウーマンとして営業の仕事をしてきた40歳です。同僚の夫との間に待望の赤ちゃんを授かり、40歳という年齢に不安はありましたが、会社の営業部門での仕事はやりがいもあり、さいわい妊娠経過も順調のようなので、仕事を継続しながら出産に臨むことにしました。
そこでまず、会社の総務課人事係に妊娠の相談をしたところ、妊娠中の諸注意や労働基準法、男女雇用機会均等法など初めて知る内容も多く驚きましたが、働く妊婦に対する会社の温かい体制を知ることもできました。ただ、今はコロナの影響は出版業にも及んでおり、業績の低迷は私の眼にも明らかです。このような経営状況から会社は人員整理の真っただ中で、会社に自分のキャリアを尊重して就業を継続してもらったことを却って申し訳なく思いました。

ドクターズEYE!働く妊産婦を守る就労環境は、労働基準法等で定められている

働く女性の母性健康管理措置、母性保護については、労働基準法により母性保護規定が定められており、加えて男女雇用機会均等法では、妊娠中の女性労働者のための保健指導または健康診査を受診するために必要な時間を確保することが定められています。就業規則にはこれらの内容と、妊娠中の女性の権利について記載しておかなければならないことになっています。妊産婦を就かせてはならない具体的業務は、重量物を取り扱う業務有害ガスを発散する場所での業務をはじめ、女性労働基準規則第2条に定められています。

妊娠中の保健指導や健康診査の受診に必要な時間の確保まで、労働基準法や男女雇用機会均等法で権利が守られていると知って、少し安心!

これまでと変わらない業務内容でも
通勤すら心身の負担に

さいわい、私の職場環境は妊婦に就労制限が課せられる業務ではなかったので、同じ部署で妊娠前と同じ仕事を継続することになりました。ところが、埼玉の自宅から約1時間かけての通勤はじわじわと私の心身に重くのしかかってきました。
妊娠10週ごろから精神的な不安と悪心が続き、電車も途中下車しなければならない事も少なくありませんでした。主治医に相談したところ、時差通勤を勧められましたが、これ以上会社に迷惑を掛けられないと考えました。でも誰の眼にも無理して通勤していることが明らかになると、人事係の職員が心配してくれ、働く妊婦にとっての時差通勤は、診断書や母健カード(後記参照)などがなくても、本人の申告だけで良いということを教えてくれました。

ドクターズEYE!
妊産婦には通勤緩和や休憩も適切な対応を

「通勤緩和」及び「休憩に関する措置」については、通常、医師等は妊娠中の女性労働者が通勤に利用する交通機関の混雑状況や職場における作業の状況を詳細に把握できないことから、具体的な指導を行わないことがあります。その場合も、事業主はその女性労働者から通勤緩和や休憩に関する措置の申し出があったときは、その通勤事情や作業状況を勘案し、適切な対応をとる必要があります。

通勤緩和や休憩の対応は言い出しにくかったけれど、医師の診断書などがなくても良いと知り、無理せずに申し出ることで自分も楽になり、周囲の人を心配させることもなかったのだと気づきました。

制度はあっても
実際は職場に気を使ってしまう?

社会的には制度として、定期的な健診や時差通勤などが働く妊婦の権利であることは理解できましたが、実際の職場ではやはり周囲に気を使ってしまい、主治医からの指導事項を会社に伝えることができず、それが悩みでした。

ドクターズEYE!
働く妊産婦のための「母健カード」とは?

男女雇用機会均等法では、「妊娠中及び出産後の女性労働者が、健康診査等を受け、医師等から指導を受けた場合は、事業主は勤務時間の変更や勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない」と定められており、そのために医療機関は指導事項を的確に事業主に伝えるため「母性健康管理指導事項連絡カード(母健カード)」を利用して、働く妊産婦が的確に指導事項が受けられることになっています。ところが、事業所や働く妊産婦に本カードの存在が十分に周知されていないこともあり、医療機関からの指導事項が事業主に届いていないことが明らかになっています。

妊産婦になって初めて知ったことのひとつが、この「母健カード」。会社に医療機関からの指導事項を伝えるために重要なアイテムです!

妊娠した女性社員を
祝福する職場環境へ

私のケースでは、会社や同僚の理解もあり、働きながら妊娠を継続できましたが、実際には「妊娠」を理由として(表向きには「妊娠」を理由とはしないことがほとんどではあっても)解雇などの不当な措置を受ける事例も少なくないと聞きました。法律や制度では、「男女雇用機会均等法による母性健康管理措置や深夜業免除など、労働基準法による母性保護措置を受けたことなどが理由で、解雇やその他不利益取扱いをしてはならない」とされているけれど。
妊娠した女性社員を祝福できる職場環境こそが、これからの社会に求められる企業像であるという認識は、すべての人にとってとても大切なことだと身に染みて感じました。

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「妊娠」が理由で解雇や不利益な取り扱いを受けない権利

事業主は、女性労働者が妊娠・出産・産前産後休業の取得、妊娠中の時差通勤など男女雇用機会均等法による母性健康管理措置や深夜業免除など労働基準法による母性保護措置を受けたことなどを理由として、解雇その他不利益取扱いをしてはなりません。(男女雇用機会均等法第9条)

制度も整備と同じように、一緒に働く人や会社の意識ももっともっと変わっていくことで、より妊産婦が働きやすい社会が実現するはずだと実感しました。

突然の体調の変化や緊急事態に備える
妊産婦としての心得

私は産前休業に入る2週間前ほどの時期に、定期的な妊婦検診で主治医から血圧の上昇が指摘され、「母性健康管理指導事項連絡カード」により会社にも通知がされました。体重の増加やむくみも出てきたことで、主治医からは妊娠高血圧症と診断され、自宅安静が必要となったため、翌週からすぐに休職することになりました。
ところがそのまま産前休業になることもあって、仕事の引き継ぎや、書類の整理など業務が重なったことが影響したためか、強い頭痛が出てしまい、会社の医務室に駆け込むことに…。保健師さんに血圧を計ってもらったところ160/110と、今までの妊婦検診では経験したことがない数値にびっくりしてしまいました。ベッドに横になり、頭を冷やしてもらって少し落ち着くことができました。主治医に連絡をとり、「30分ごとに血圧を計り、落ち着いたらば帰宅して結構ですが、血圧が上昇または頭痛が増悪するようならば、救急車を要請してください」との指示をもらいました。主治医の病院は自宅の近所なので、会社からはすぐに行くことはできなかったのですが、先生は母の代から親しくしている方なので、声を聞けただけでも安心することができました。さいわい血圧は一過性ですぐに正常化し、翌日の妊婦検診でも異常はみられず、ホッとしました。

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突然の体調変化や緊急事態のため主治医との連絡は密に

働く妊婦は、自宅の近くに主治医がいる場合が多く、出社している場合にはすぐに主治医にかかれない場合も少なくありません。日頃から主治医と連絡を密にして、緊急時の連絡体制を考えておく必要があります。また、母子手帳と保険証は必ず携行してください。

定期検診を受けていても、突然の体調の変化を予測することは難しかったので、やはり緊急事態に備える意識は常にキープすべきだと思いました。

C美さんの感想

私はその後無事に女の子を出産しました。会社の仲間にも応援され、ますます仕事への意欲が高まり、すぐにでも働きたい気持ちがありましたが、労働基準法では産後休業は8週間となっています。また本人が希望し、主治医が許可した場合であっても6週間は休業しなければならないとされていることも、妊産婦になって初めて知ることでした。
かつては妊娠すると労働弱者になるとされていた風潮もあったかもしれませんが、女性の職場進出が進み、妊娠中または出産後も働き続ける女性は確実に増えています。少子化が一層進行する中で、職場において女性が母性を尊重され、働きながら安心して子どもを産むことができる条件が、今後ますます整備することを私も経験者として強く望んでいます。

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監修医プロフィール

落合 和彦

生年月日 昭和26年10月10日
現職 東京慈恵会医科大学客員教授
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長
公益社団法人 東京都医師会理事

学歴および職歴
昭和52年東京慈恵会医科大学卒業後、米国UCLA留学を経て東京慈恵会医科大学付属青戸病院院長、産婦人科教授を歴任
平成29年同大学を定年退任 同大学客員教授となる。
公益社団法人・東京都医師会理事、一般社団法人・東京産婦人科医会名誉会長を兼務

所属学会
日本産科婦人科学会(功労会員)、日本産婦人科医会(理事)、日本婦人科腫瘍学会(功労会員)、日本臨床細胞学会(功労会員)、日本産婦人科手術学会(功労会員)日本サイトメトリー学会(名誉会員)など

2019年11月現在

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