第1回
子宮頸がんのウソ・ホント!
誰にでも起こりうる、そのリスク。

監修医 落合和彦
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長

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働く女性が大切にしたい自分メンテナンス術

自分らしく、日々をハツラツと過ごすワーキングウーマンの皆さん。いつも頑張りすぎているあなたにこそ、ストレスを発散してリラックスする時間や、自分メンテナンスのための時間を大切にして欲しい。婦人病や妊娠・出産・産後といった女性ならではのヘルスチェックは定期的に。“仕事もプライベートも自分らしく充実させたい”そんなあなたのウェルネスライフを叶えるために、各方面の専門医が、働く女性のヘルスチェックで、今もっとも注目したい4つのトピックスについてアドバイス!

CASE.01では、20代~30代という働き盛り世代の女性が注意したい、ハイリスク型の子宮頸がんウイルスについて、婦人科系専門医がアドバイス!キャリアウーマンの花形ともいえる広告代理店に勤務するA子さんの事例をご紹介します。

子宮頸がんのウソ・ホント!
誰にでも起こりうる、そのリスク。

CASE.01
広告代理店に勤務するA子さん32歳の話。

若い女性に多い⁉ 子宮全摘の可能性もある子宮頸がんとは?

こんにちは、A子です。私が勤める広告代理店の仕事は、仕事のチャンスも男女平等。努力すれば昇進もできるやりがいのある職場です。毎日自分らしく充実しています!

現在、社内に交際中の年上の彼氏(40歳)もいて、彼との将来のことも考え始めるようになってきたところ。多忙すぎて自分メンテナンスよりも仕事優先にしてしまいがちになるのは、自分でも少し気になっているところです。でも体力にはもともと自信があって、会社の健康診断でも異常はなく、健康面に関しては全くノーマークでした。

そんな矢先、3歳年上の姉が「子宮頸がん」と診断され、子宮全摘の手術を受けることに!幸い、がん病巣は子宮頸部に限局する初期状態であったため、手術だけで完治しましたが…私も彼氏との結婚のこともあるし、何だか不安に。そこで特別な症状はなかったものの念のためにと婦人科を受診しました。一般的な検査のほか子宮頸部から細胞を採取して調べる「子宮頸部細胞診」を受けました。それがまさかこんなことになるとは想像もしていませんでした…

ドクターズEYE!感染リスクは誰にでもある

テレビなどで女性芸能人が子宮頸がんの闘病をしているというニュースを見たことがある人も多いと思います。日本では子宮頸がんは年間1万人が罹患し、2900人が死亡しており、特に、20歳~40歳の世代での罹患が増加しているのが近年の特徴です。この「がん」の原因には、ある種の「ウイルス」が関係していることがわかってきました。子宮頸がんの初期症状は「不正出血」と思われがちですが、実際の初期のがんでは無症状の方がほとんどです。 診断には、まず子宮頸部から直接細胞を採取する「子宮頸部細胞診検査」が行われます。この検査で細胞に異常が指摘された場合には、次のステップとしてウイルス感染の有無や、組織検査を行うことで確定診断となります。

検査結果その1

2週間後に判明した細胞診検査の結果は、予想外なものでした。軽度の細胞診異常(LSIL)が見られ、医師からはウイルス感染の有無を調べる検査を勧められたのです。これまで健康には自信があったのに、どうして? いつウイルス感染したのかしら? それとも姉のこともあるし、遺伝性のものなのかしら?すっかり気が動転してしまい考えがまとまらない。そうだ、専門医にもっと詳しく子宮頸がんについて尋ねてみよう。

ドクターズEYE!感染リスクと遺伝

子宮頸がんのほとんどがヒトパピローマウイルス感染によるものが原因です。しかし、ヒトパピローマウイルスはほとんどの成人女性が一生のうちに一度は感染すると言われているほど、ポピュラーなウイルスでもあります。感染しても、90%は2年以内に自然に治癒します。ところが、たとえば子宮頸部に傷があったり、免疫機能が低下したりしているような場合、残りの10%は体内に残り、子宮頸部の細胞を徐々にがんの前段階である異形成という状態に変化させていってしまいます。遺伝については、子宮がんでは乳がんや卵巣がんの一部に見られる遺伝性は確認されていません。

検査結果その2

不安な気持ちで聞いたウイルス検査と子宮頸部組織検査の結果では、ヒトパピローマウイルス6型感染および「軽度異形成」とのこと。3ヵ月毎の細胞診による経過観察となりました。3か月後の再検査でも結果は同じでした。これってどう受け取ったらよいの?と悩む前に、専門医にウイルスの型についても聞いてみよう!

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ウイルスの型によってがんに進行しやすいかがわかる

一言でヒトパピローマウイルスといっても、現在100以上の「型」があることがわかっており、この型によって、がんになりやすいもの(ハイリスクグループ)とそうでないものがあります。ハイリスクグループは、16型、18型、31型、33型…と現時点では15種類が判明しています。日本では子宮頸がんの60~70%が16型と18型によるもので、特に20~30代で多いことがわかっています。

感染したウイルスの型別の対処法

子宮頸部異形成と診断されても、すべてが子宮頸がんになるわけではなく、治療なしで自然に治ってしまう場合もあるので冷静に対処していただいても大丈夫です。異形成の状態には、軽度・中等度・高度の3段階があり、その状態がそのまま持続する場合や消失する場合、または軽度だったものが中等度、高度へと進行していく場合などさまざまです。そのための経過観察になります。一般にハイリスクグループの感染では30%前後が、数年から10年程度で浸潤がんに進行するといわれています。ですから、たとえハイリスクグループの感染であっても軽度の病変であれば、定期的な経過観察だけで済む場合もありますので、ハイリスクグループであっても不安になりすぎる必要はありません。仮に、高度異形成に進行して治療をする場合、レーザーでその部分だけを焼く「子宮頸部レーザー蒸散術」、子宮頸部を1~1.5cm切り取る「子宮頸部円錐切除術」があり、子宮の温存が可能です(妊娠する機能<妊孕性>は残ります)。しかし病変が子宮頸がんまで進むと、手術による子宮の摘出や、放射線療法になります。転移などがある場合は、抗がん剤による治療も行われます。この場合には妊孕性は失われてしまうので、やはり経過観察が大事です。

病変消失~その後

不安ながらも経過観察を続けた結果、1年後の検診では細胞診も正常化し、ヒトパピローマウイルスの6型も消失しました!ほっと胸をなで下ろしたのも束の間、今回の6型感染が他の疾患の原因になることがあるのかしらと、再び不安に。

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ウイルスが消失した後のリスクの考え方

ヒトパピローマウイルスの6型、11型が主な原因となるものには、性感染症の一種である尖圭コンジローマという病変があります。これは外陰部や陰茎に3mm程度のとさか状のイボのようなものができてきます。痛みはありませんが、妊娠すると大きくなる傾向があります。クリーム状の塗り薬などで治療するか、手術で切除することもあります。ですが、この病変が「がん化」することはありません。

そうなのね!ひとまず安心。でも、姉の病気のおかげで検診の機会があって、自分の身体を定期的にチェックする大切さを実感しました。なにより重要なことは、日ごろから相談できる「かかりつけの産婦人科医」を持つこと!何の症状もなくても婦人科検診を受けることが大切なのですね。

働くすべての女性へのアドバイス

ヒトパピローマ感染の予防の第一歩は性交渉の際にコンドームを使用することです。コンドームを使用すれば他の性感染症も防ぐことができます。しかし、外陰部にもヒトパピローマウイルスが感染している場合は、コンドームを付けていても感染する可能性があります。次に有効な予防法は、多くの国々で導入され、効果が得られているワクチンの接種です。特に子宮頸がんの原因になりやすいとされている16型、18型を対象とする製剤と、それら2つに加え尖圭コンジローマの原因となる6型、11型の4種を対象とする製剤があり、一度チェックしてみることをお勧めします。日本では接種部位の慢性的な痛みなどの副反応があったため、いったん積極的な勧奨が控えられていましたが、ワクチン接種と副作用の明確な因果関係がないことから勧奨再開を求める声が各方面から挙がっています。ちなみにワクチンは予防のためのものであり、既にかかったウイルスには効果がありません。また、日本の子宮頸癌の30~40%は16型、18型以外のヒトパピローマウイルスを原因とすることから、定期的な子宮頸がん検診が推奨されています。1~2年に1度は子宮頸がん検診をおすすめします。

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監修医プロフィール

落合 和彦

生年月日 昭和26年10月10日
現職 東京慈恵会医科大学客員教授
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長
公益社団法人 東京都医師会理事

学歴および職歴
昭和52年東京慈恵会医科大学卒業後、米国UCLA留学を経て東京慈恵会医科大学付属青戸病院院長、産婦人科教授を歴任
平成29年同大学を定年退任 同大学客員教授となる。
公益社団法人・東京都医師会理事、一般社団法人・東京産婦人科医会名誉会長を兼務

所属学会
日本産科婦人科学会(功労会員)、日本産婦人科医会(理事)、日本婦人科腫瘍学会(功労会員)、日本臨床細胞学会(功労会員)、日本産婦人科手術学会(功労会員)日本サイトメトリー学会(名誉会員)など

2019年11月現在

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