第12回
女性の尿トラブル

監修医 落合和彦
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長

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女性の尿トラブル

“仕事もプライベートも自分らしく充実させたい”そんなあなたのウェルネスライフを叶えるために、各方面の専門医が、働く女性のヘルスチェックのアドバイスをするこのコーナーでは、女性の身近にリスクがあるトピックスをご紹介します。

CASE.12では、一般的に男性よりも女性に多いとされる尿トラブルについてです。尿トラブルを抱える女性はどんな症状に悩むのか、どのような疾患が多いのか、他人に話しにくい内容でもある尿トラブルの原因はどのようなものなのか、現在54歳になる経理課長のU女史のケースをご紹介します。

社内でも一目置かれる名物女性課長U女史の悩み

CASE.12 女性の尿トラブル

経理課長をしているUです。私は長年「尿漏れ」に悩んでいます。特に5年前に閉経を迎えた後からは年々悪化してくるように感じていました。そこで、尿トラブルについてこの際、専門家にさまざまな疑問を尋ねてみることにしました。

ドクターズEYE!女性の排尿障害で最も多い疾患は膀胱炎

女性の排尿障害で圧倒的に多い疾患は膀胱炎です。女性は尿道の長さが3cm程度と短いため男性に比べ細菌が侵入しやすいからです。特に急性膀胱炎は、体の抵抗力が落ちているときや排尿をガマンしすぎたとき、性交渉後に発症しやすいとされています。膀胱は無菌状態ではありませんが、適度な排尿で細菌は常に排出されますので、膀胱炎の予防には排尿をガマンしないことが重要です。ちょっと変だと思ったら、水分を多めに摂取し、排尿回数を増やすのも有効です。また40歳以降の女性に多くみられる、下腹部の不快感が持続する慢性膀胱炎は細菌が原因ではない場合も多く、心因性や女性ホルモンの低下なども関連していますので、抗生剤ではなく、漢方薬や膀胱の刺激を抑える薬、生活習慣の改善やホルモン補充療法などで治療改善することができます。

細菌だけでなく、心因性や女性ホルモンの低下が原因になって起こる膀胱炎もあるなんて、初めて知りました!

成人女性の約30%、
約3人に1人は尿漏れ経験者!

ネットで検索してみると他人に話せなかったり、相談しにくかったりするものとして「尿失禁」があることがわかりました。また、加齢とともに尿失禁は増え、成人女性の約30%、約3人に1人は尿漏れの経験者とわかり、改めて驚きました。尿漏れはどのように発生して、どのようなタイプがあるのだろう?

ドクターズEYE!
尿漏れは大きく分けて「腹圧性」と「切迫性」の2タイプがある

尿漏れは大きく分け「腹圧性」と「切迫性」の2つのタイプがあります。笑ったり重いものを持ち上げたりするなどしてお腹に力が入ると尿漏れを起こすものを「腹圧性尿失禁」と呼び、これは妊娠出産などにより骨盤底の筋肉がゆるんで膀胱などの臓器を支えられなくなり、尿道や膀胱がぐらついて尿が漏れてしまうのです。肥満や更年期の女性ホルモン低下も原因の一つとされています。一方、「切迫性尿失禁」は、膀胱が過剰に収縮してしまう過活動膀胱によって引き起こされ、突然尿意を感じるのが特徴です。日中だけでなく夜間の排尿回数も多くなります。男女を問わず加齢が原因で起こりますが、男性は前立腺の影響で尿漏れが少ないのに対し、女性は慌ててトイレに駆け込んでも間に合わず漏れてしまうことが多いとされています。いつ起こるかわからないので外出を控えてしまうなど、腹圧性失禁よりもQOL(生活の質)を低下させる度合いが高いと言われています。また、両者の特徴が混在した「混合性尿失禁」という病態を有する尿失禁も少なくありません。

尿漏れにもタイプがあり、症状によってはQOL(生活の質)に関わるというのはとてもよく理解できることですよね。

「腹圧性」の尿漏れの場合の適切な治療法は?

私の場合、自分の尿失禁は「腹圧性」と考えられました。原因がはっきりしたことで少し安心した一方で、どのように自己管理すれば良いのか、また適切な治療はあるのかを尋ねてみました。

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内服薬のほか、骨盤底筋体操が有効!

代表的な治療法は、内服薬と骨盤底筋体操です。また体重がBMI30以上であれば減量も必要です。
骨盤底筋体操としては椅子に姿勢よく腰をかけ、背には持たれず、膣や肛門を10秒ほど収縮させてからリラックスさせる。10回をワンセットとして1日5セットを目安にやってみてください。軽い尿漏れ程度であればこの体操を行うだけで症状が改善することもあります。また、切迫性失禁にも骨盤底筋体操が有効の場合もあります。尿意を感じても少し我慢してからトイレに行くようにする訓練です。
また、どちらの場合でも1日の尿量や回数を知るために排尿日誌をつけることをお勧めします。

症状が軽い場合は、骨盤底筋体操でも改善することができるのね!

骨盤底筋体操以外の治療法にはどんなものがある?

私も早速「骨盤底筋体操」を試してみることにしましたが、さらに、この他にはどのような治療法があるかについても、念のため尋ねてみることにしました。

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尿漏れを改善する市販薬もあるが病院での診断を

内服薬としては骨盤底筋や膀胱を収縮させる働きを持った薬が処方されます。市販薬もありますが、自己判断せずまずは病院で診断を受けたほうが安心できるでしょう。
切迫性尿失禁の原因である過活動性膀胱に対する薬物療法としては、抗コリン薬やβ3受容体作動薬が用いられます。これらはいずれも膀胱の筋肉を緩め尿意切迫感も改善して膀胱に尿をしっかり溜められるようになります。まれに口渇や便秘といった副作用が見られることがあるので注意が必要です。

なるほど、市販薬があるのは手軽だけど、やはり一度は病院での診断を仰いだ方が安心ね。

尿トラブルに加えて、子宮脱という症状がでることも。

私の友人のFKさん(51歳)は、尿トラブルに加えて膣から「何か」出てくるのが気になっていたそうです。思い切って婦人科医を受診した際に、子宮脱と指摘されたのだとか。

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排尿障害や活動膀胱が合併する場合も多い

骨盤臓器脱は、骨盤内の臓器が下がって骨盤の外に脱出するもので、発生部位によって膀胱瘤、子宮脱、直腸瘤、膣断端脱などがあります。多産婦や農家の婦人、肥満などで発生しやすいとされ、排尿障害のほか、過活動膀胱も合併する場合も多いとされています。治療としては、保存療法としてドーナツ状のシリコン製の器具を膣内に入れて臓器の脱出を防ぐリングペッサリー装着のほか、手術療法として脱出子宮を摘出し周囲の靭帯を補強する方法や、下がった臓器をメッシュで支える手術などが行われ、最近では内視鏡で臓器を挙上する手術も行われます。

排尿障害に合併しやすい他の症状もチェックしておいた方がいいですね。

「年齢のせい…」と諦めずにまずは受診を

尿トラブルについて理解が深まるにつれ、今まで「もう自分も年だから仕方がない…」と諦めてしまっていたことを反省しました。これらの尿の症状があると、たとえ直接的には命に関わらなくても、日常の生活の質(QOL)が低下してしまいますから、これはとてももったいないことだなと認識し、同年代の周囲のスタッフにも理解してもらう必要性を痛感しました。その時、医療機関への受診についてはどのような注意が必要なのか、専門家に尋ねました。

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尿の回数、尿量を記載した排尿日記を持参して

泌尿器科を受診するとなると、少し抵抗感を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、泌尿器科にしかない排尿に関する症状の検査を行う医療機器もあるため、悩みを抱える方は泌尿器科を受診することが重要です。原因をしっかりと見つけて早期に治療を行えば、症状の進行を防ぐことにつながります。泌尿器科専門医がいる病院やクリニックがわからない場合には、内科や婦人科医などのかかりつけ医に相談すれば、適切な泌尿器科専門医を紹介してもらうことができます。
受診に際しては、どのような尿トラブルが気になるのか?いつごろから症状が出てきたのか?尿の回数、尿量を記載した排尿日誌があれば持参してください。

1日1.泌尿器科専門医がいる病院やクリニックを見つけて、排尿日誌を持参することね。

U女史の感想

こうした尿トラブルがあっても、なかなか病院に足が向かない人も多いとされていますが、症状の多くは、専門家の指導のもとで適切な治療や処置を受ければ、悪化するのを防いだり、改善したりできる可能性が高いとされています。また尿にはさまざまな健康に関する情報が含まれているので、少しでも気になることがあったら、気軽に医師に相談してみるとよいですね。

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監修医プロフィール

落合 和彦

生年月日 昭和26年10月10日
現職 東京慈恵会医科大学客員教授
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長
公益社団法人 東京都医師会理事

学歴および職歴
昭和52年東京慈恵会医科大学卒業後、米国UCLA留学を経て東京慈恵会医科大学付属青戸病院院長、産婦人科教授を歴任
平成29年同大学を定年退任 同大学客員教授となる。
公益社団法人・東京都医師会理事、一般社団法人・東京産婦人科医会名誉会長を兼務

所属学会
日本産科婦人科学会(功労会員)、日本産婦人科医会(理事)、日本婦人科腫瘍学会(功労会員)、日本臨床細胞学会(功労会員)、日本産婦人科手術学会(功労会員)日本サイトメトリー学会(名誉会員)など

2019年11月現在

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