落合 和彦
生年月日 | 昭和26年10月10日 |
現職 | 東京慈恵会医科大学客員教授 |
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長 | |
公益社団法人 東京都医師会理事 |
監修医 落合和彦
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長
CASE.19では、予期しない妊娠リスクに備えるための選択肢として注目される「緊急避妊薬(アフターピル)」に焦点を当てます。
化粧品会社・営業部に配属されたばかりの新入社員D子(23歳)は、友人との会話をきっかけに、自分自身の体と将来を守るための知識として、緊急避妊薬について関心を抱くようになります。正しい情報と専門医の助言をもとに、D子が見つけた“いざという時の備え”とは——。
D子です。今年の春、化粧品会社の営業部に新卒で入社しました。配属されて間もなく、同じチームの先輩とランチをしていたときに、友人が「コンドームが外れてしまって、アフターピルを使った」という話をしてくれました。
正直、それまで緊急避妊薬のことをちゃんと考えたことがありませんでした。「万が一のとき、自分だったらどうする?」と自問自答するようになり、不安になりました。
ネットで調べてみたら、いろいろな情報が出てくるけれど、どれが正しいのかよく分からず…。そこで以前からお世話になっている、かかりつけの産婦人科医に相談してみることにしました。
ドクターズEYE!
「緊急避妊薬(アフターピル)のしくみと正しい使い方」
アフターピルとは避妊に失敗したり、性犯罪に巻き込まれたりした際、緊急的い阻止する薬のことです、現在主流になっているアフターピルには黄体ホルモンが含まれ、服用することで排卵を遅らせたり、子宮内膜の成熟をはやめて着床に適さない状態にすることで、妊娠を阻止できるとされています。ただし、性行為72時間以内に服用しなければ十分な効果は得られず、72時間以内に服用した場合で妊娠を阻止できる確率は84%、24時間以内に服用した場合は95%と言われております(LNG法の場合)。
オンライン診療
でも、急なことで産婦人科をすぐに受診するのが難しい場合や、仕事や家庭の事情で病院に行く時間が取れないこともあるかもしれませんよね。
そういったときに、どうすればいいのか不安に感じる方も多いのではないでしょうか?
ドクターズEYE!
「忙しい女性の味方に。オンライン診療でアフターピルがもっと身近に」
望まない妊娠を防ぐため、アフターピルは女性の強い味方ともいえる薬です。しかし、これまでは婦人科などを受診し、診察を受けなければ入手することはできませんでした。性犯罪に巻き込まれた方や仕事などで受診することができない方の中にはアフターピルの服用のタイミングを逃してしまう方が多いのも事実です。そのため、2019年にはオンライン診療での処方も可能になりました。
妊娠を防ぐ仕組み
薬には、黄体ホルモンが含まれていると聞きましたが、具体的にどうしてそれで妊娠を防ぐことができるのか、もう少し詳しく教えていただけますか?
ドクターズEYE!
「アフターピルの黄体ホルモンが妊娠を防ぐ仕組みとは?」
アフターピルに含まれる黄体ホルモンは、卵胞(卵子が入った袋)の成熟を遅らせることで排卵自体を遅らせる効果があるため、72時間以内に服用すると妊娠する可能性を大幅に低くすることができます。また万が一、性交渉を持った日が排卵日前後でありアフターピルによる排卵の抑制が間に合わずに受精した場合でも、黄体ホルモンは受精卵が着床する子宮内膜の性質を変化させる作用もあります。そのため、受精が起こった場合でも子宮内膜への着床が阻害され、妊娠は成立しにくくなるのです。
入手方法と費用
黄体ホルモンの働きで妊娠を防ぐ仕組みが理解できました。
では、実際にアフターピルを入手するにはどうすればよいのか、また具体的な服用方法について詳しく教えていただけますか?
ドクターズEYE!
「アフターピルの入手方法と費用」
アフターピルは医療用医薬品であるため、医師の診察と処方を受けなければ入手することはできません。一般的には性行為後72時間以内に婦人科を受診し、処方を受けることとなります。しかし、2019年には婦人科受診に精神的な負担を感じたり、アフターピルを処方する医療機関の受診が難しかったりする患者さんに限ってオンライン診療での処方が可能になりました。アフターピルの処方は健康保険が適用とならず自由診療となるため、診察料・処方料・薬代などは医療機関によって異なります。費用に幅はありますが、全ての費用を含めて一万円前後が相場です。
オンライン診療の安全基準と体制
オンライン診療では、産婦人科専門医以外の医師が対応することもあると聞き、不安に感じていますが、問題ないでしょうか?
ドクターズEYE!
「オンライン診療での緊急避妊薬処方に関する安全基準と体制」
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年3月)(令和4年1月一部改訂)において、オンライン診療で緊急避妊に係る診療を行うことについて、一定の要件に加え、産婦人科医又は厚生労働省が指定する研修を受講した医師が、初診からオンライン診療を行うことは許容されうることとしています。
また、同指針によれば、初診からオンライン診療を行う医師は一錠のみ院外処方を行うこととし、受診した女性は薬局において研修を受けた薬剤師による調剤を受け、薬剤師の面前で内服することとされています。
具体的にはどのように薬を入手するのでしょうか?
緊急避妊薬を必要とする女性が、医療機関を受診し基本的には医師の前で服用します。
院外処方を採用している場合には、受診後に処方箋を発行してもらい、調剤薬局で受け取ります(この場合もその場で服用することが望ましいです)
前項で触れたように2019年より、産婦人科医又は厚生労働省が指定する研修を受講した医師が、初診からオンライン診療を行うことができるようになりました。
服用後の確認方法
アフターピルを服用した後、きちんと避妊効果が得られたかどうかを確認するには、どのような方法がありますか?
ドクターズEYE!
月経の遅れや変化に注意を
72時間以内に用法通り服用すれば、84%くらいの避妊が期待できますが、すぐに効果を判定することはできません。服用後、月経予定日から7日経過しても月経が来ない場合、平常時より明らかに月経量が少ないような場合には妊娠している可能性もあるので、検査を受けるようにしましょう。
緊急避妊薬の事前入手
万が一の事態に備えて、この薬をあらかじめ手元に置いておき、必要なときに性行為後72時間以内に服用するといった使い方は認められているのでしょうか?
ドクターズEYE!
お守り代わりはNG?緊急避妊薬の正しい使い方とは
緊急避妊薬は、あくまで緊急時に使う方法であって日常的に使うものではありません。また、緊急避妊ピルは妊娠を防止しますが、100%ではないことも強調しておきたいと思います。
何か副作用はあるのですか?また、服用後に妊娠することはあるのでしょうか?
この薬を服用した後に、不正子宮出血や頭痛、吐き気、倦怠感、眠くなるなどの月経時にみられる症状があらわれることがあります。一時的な使用では女性の体に影響を及ぼすものではありません。むしろ使用をためらって妊娠することがあれば、そちらのほうがはるかに女性の体に与える負担が大きいものです。 また、服用後は排卵が遅れてかえって妊娠しやすくなることに加え、緊急避妊薬は服用後の性交による妊娠を防ぐことができるわけではないため、恒常的な避妊を考えているのであれば、他の避妊法の使用を考えましょう。
市販薬の現状
欧米では薬局で市販されているアフターピルもあると聞きますが、日本ではどのような状況なのでしょうか?
薬剤の性質上、現状では医療機関での厳重管理が必要となっていますが、将来的には薬局で市販される可能性があります。現在、一部の薬局で「調査研究」として教育を受けた薬剤師の管理のもとに実施されています。(2024年12月現在)
具体的にはどのようなシステムになっているのですか?何か異常が起きたときにはどうすれば良いのでしょう?
現在、日本では、薬局で処方箋なしに緊急避妊薬を販売することは認められていません。この調査研究に薬局・購入者が参加する場合のみ、医療機関の受診を経ない、処方箋なしでの薬局での販売が認められています。
まず購入を希望される方は、研究への参加同意や機微な情報も含む質問やアンケート等への協力をいただく必要があります。まず薬局(指定薬局はHPで公開されています)へ電話で事前相談(ご本人より)してから、薬局に行きます。その際、以下のものが必要となります。
薬剤師から服用する医薬品について説明を受け、服用についての同意書を作成します。 そして、服用したことを薬剤師が確認できる状態(面前)で服用する必要があります。 最後に薬剤師から、3週間後の産婦人科の受診など、服用後に行っていただきたいことを説明します。
性犯罪を受けた場合にはどうしたら良いのですか?
性犯罪の被害に遭ってしまったときには、精神的なケアが重要な場合が多いので、信頼できる友人や家族の付き添いで警察に届けることが推奨されています。被害を告白するのがトラウマになることもありますが、警察と一緒に医療機関に受診することで犯人の特定に繋がることも少なくありませんし、公費負担の制度を利用することができます。
D子の感想
緊急避妊について正しい知識と対応をもっと多くの女性が知ることが大切だと感じました。もちろん、望まない妊娠を防ぐためには、普段からしっかり避妊をすることが一番ですが、もしもの時に慌てずに対処できるように、正しい情報を持っておくことが心強いと思いました。
監修医プロフィール
落合 和彦
生年月日 | 昭和26年10月10日 |
現職 | 東京慈恵会医科大学客員教授 |
一般社団法人 東京産婦人科医会・名誉会長 | |
公益社団法人 東京都医師会理事 |
学歴および職歴
昭和52年東京慈恵会医科大学卒業後、米国UCLA留学を経て東京慈恵会医科大学付属青戸病院院長、産婦人科教授を歴任
平成29年同大学を定年退任 同大学客員教授となる。
公益社団法人・東京都医師会理事、一般社団法人・東京産婦人科医会名誉会長を兼務
所属学会
日本産科婦人科学会(功労会員)、日本産婦人科医会(理事)、日本婦人科腫瘍学会(功労会員)、日本臨床細胞学会(功労会員)、日本産婦人科手術学会(功労会員)日本サイトメトリー学会(名誉会員)など
2019年11月現在
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